6月某日。
Instagramを開いた瞬間、目に飛び込んできた投稿があった。
「ご報告」
白い画面に、明朝体でただ静かに並ぶ二文字。
その言葉が、胸に深く刺さった。
キャプションには、一人の女性の現状が綴られていた。
――「命の宣告」
17年前、乳がん。
その後、再び乳がん。
二度の闘いを乗り越え、そして三度目の告知を受けたと書かれていた。
私は彼女に会ったことがなかった。
Instagramで、ほんの数度メッセージをやり取りしただけ。
それでも、どうしようもなく「会いたい」と思った。
――直接お会いできる機会があれば嬉しいです。
そう伝えた。
彼女の状況を考えれば、会いたいと言うことが正しいのか迷いもした。
けれど、心より先に体が動いていた。
彼女は快く返事をくれた。
ほっと胸をなでおろしたのを、今も覚えている。
それから1ヶ月ほど経ったある日。
「相談したいことがあります」と、彼女からDMが届いた。
そして初めてのZOOM。
画面越しに現れた彼女に、不思議と初対面の感覚はなかった。
言葉を交わすたびに、彼女の存在が私の中にすっと溶け込んでいく。
「撮影をしてほしい」
彼女は言った。
なぜか涙があふれた。
彼女も泣いていた。
ただ、二人で泣いていた。
彼女の人生について話を聞いた。
強くて、慈愛にあふれていて、そして驚くほど前向きな女性だった。
「できれば、髪を剃ってほしい」
その依頼に、胸が震えた。
私を選んでくれたことが、ただただ嬉しかった。
決めた
「最高の1日にしよう。」
撮影日は抗がん剤のクールに合わせ、体調の良い日に。
8月8日、その日が選ばれた。
私はチームを作った。
彼女が信頼している友人にヘアメイクを。
私が信じる仲間にアシスタントを。
彼女のリクエストは
「尼僧の衣装を着たい」。
クールで強く、かっこいい。
そのイメージはお互いの心で重なっていた。
ただ撮るだけではなく、その一日を「人生最高の日」にしたかった。
だから私たちスタッフは、巫女の衣装で揃えることにした。
8月8日(土)
灼熱の夏の日。
そして、魂が熱を帯びた一日。
体力の落ちた身体に、長時間の撮影は決して楽ではなかったはず。
けれど彼女は終始笑顔でいた。
病気であることを忘れてしまうほどに。
尼僧の衣装をきた彼女は、美しかった。

赤の衣装に着替え、撮影が始まった。
私は赤い口紅をお願いした。
彼女の中に燃えるようなエネルギーを、表現したかったから。
その瞬間、彼女の瞳に光が宿った。
すべてを受け入れ、覚悟を決めた人だけが放てる、強く澄んだ輝き。
それは、まぎれもなく「生きる美しさ」だった。

――あの日、私に大切なことを教えてくれた彼女へ。
「出会ってくれてありがとう」
「託してくれてありがとう」
「一緒に最高の一日を過ごしてくれてありがとう」
心からの感謝の気持ちを、改めて伝えたい。


