90代の撮影で一番大切なのは「美しい写真」より「安全で快適な時間」を過ごしていただくこと。介護福祉士として現場で学んだ知識と、写真家としての経験を組み合わせて、心に残る一枚を安全に撮るポイントをお伝えします。
ポイント1:体調管理と疲労対策
撮影前の体調チェック
90代の方の体調は、私たちが思う以上にデリケートです。撮影前に必ず確認したいのは以下の4点です。
- 今日の体調(痛み・めまい・息切れの有無)
- 血圧の薬を飲んでいるか(急に立つとふらつく「起立性低血圧」に注意)
- 水分は足りているか(脱水は疲労の原因)
- トイレの場所確認(安心して撮影に集中できるように)
疲れを溜めない撮影リズム
90代の方の集中力は10〜15分が限界です。長い撮影になる場合「15分撮影したら5分休憩」のリズムを必ず守りましょう。休憩中は背もたれのある椅子で深く座り直し、お茶を一口飲んでもらいます。
疲労のサインを見逃さない
以下のサインが出たら、すぐに撮影を中断してください。
- まばたきが増える、目を細める
- 背中が丸まってくる、肩が前に落ちる
- 口の乾きを訴える、唇をなめる
- 返事が遅くなる、視線が合わなくなる
「大丈夫ですか?」とお声掛けしても「大丈夫」と答える方が多いです。
それは周囲に対する気遣いの場合もありのですが、自分自身の体調の変化を感じにくくなっているという理由もあります。本人の言葉を鵜呑みにせずに、観察することがとても大切です。
ポイント2:環境設計(五感への優しい配慮)
光の調整
90代の方は白内障などでまぶしさを強く感じます。ストロボの直射は避け、窓光やバウンス光など柔らかい光を使いましょう。光を当てる前には「今から少し明るくなりますよ」と必ず声をかけて、驚かせないように配慮します。
安全な動線と椅子選び
足元のコードや段差は転倒の元。撮影場所からトイレまでの動線を完全にフラットにするか、手すりを確保します。椅子は「肘掛け付き・座面高45cm程度・適度な硬さ」のものを選び、立ち上がりやすくしておきましょう。
室温管理
高齢者は体温調節が苦手です。室温22〜25度、湿度50〜60%を目安に、エアコンの風が直接当たらないよう調整しましょう。
音への配慮
聴力が低下している方には、BGMは歌詞のない静かな曲を小さめに。指示を出すときは正面に回り込み、低いトーンでゆっくり話すと伝わりやすくなります。口の動きや表情などで伝えることも必要な場合もあります。また、小さなホワイトボードなどに書いて伝えるなどの工夫もします。
補聴器のハウリング(キーン音)にも注意が必要です。
室温管理
高齢者は体温調節が苦手です。室温22〜25度、湿度50〜60%を目安に、エアコンの風が直接当たらないよう調整しましょう。寒がる方が多いので膝掛けなどを用意してあげるのも良いでしょう。
ポイント3:コミュニケーションと尊厳(大人対大人の対話)
指示は短く具体的に
「もっと笑って、そして体をひねって、手は膝の上に置いてください。」といった複数の指示は混乱を招きます。
「顎を1cm下げましょうか」「右手を膝に置いてみましょう」と、一文一動作で短く伝えるのがコツです。
肯定的な言葉選び
「動かないで」「猫背にしないで」といった否定語は緊張を生みます。
「いいですね。そこで止まりましょう」とか「背筋を伸ばすととても素敵ですね」と肯定的な言葉に変えると、自然な表情が生まれます。
90年の人生への敬意
絶対に子ども扱いせず、人生の大先輩として敬意を持って接してください。
「昔はどんなお仕事を?」「ご出身もこちらですか」など、過去の思い出を一言だけ聞くと、表情がぐっと生き生きとしてきます。「今朝は何を食べましたか?」近々の出来事は忘れてしまっていることもあるので避け、答えやすい昔の話をするようにしましょう。
同伴者との連携
ご家族や施設スタッフには「通訳役」ではなく「応援団」になってもらいます。
撮影中はご本人と直接お話しし、周りの方には「素敵ですね」「いい表情です」と盛り上げてもらうのがベストです。
安全な姿勢づくり
座位撮影を基本に
90代の方には立位より座位撮影を推奨します。
転倒リスクがなく、長時間でも疲れにくく、表情が安定するからです。お尻を座面の奥まで入れ、足裏全体を床につけ、背もたれと腰の間に薄いタオルを入れると姿勢が整います。
まとめ:技術より心、心より安全
90代の撮影で最も大切なのは「無事に楽しく終えること」。美しい写真は、安全と信頼があって初めて生まれます。
90年の歴史を刻んだお顔は、それだけで素晴らしい被写体です。私たちが安全と快適さを整えることで、その方らしい穏やかで深い表情が自然と現れます。
「ありがとう、楽しかった」と言っていただけた時の笑顔が、何より美しい瞬間です。技術は後からついてきます。まずは「この方を大切にしたい」という気持ちを、カメラより前に置いてくださいね。