介護美容写真家の山田真由美です(介護福祉士)。
「車椅子が写ってしまうのが気になる」「車椅子だと姿勢が崩れて見える」というご相談をよくいただきます。
15年間介護現場で働き、数多くの車椅子の方を撮影してきた経験から、車椅子を活かした撮影のコツをお伝えします。
撮影前の準備:安全確認と環境設定
まず撮影を始める前に、必ず以下を確認します。
体調確認 今日の体調はいかがですか?痛みやだるさはありませんか? トイレは大丈夫ですか? 水分は足りていますか?
車椅子のチェック ブレーキがしっかりかかっているか フットレストが正しくセットされているか タイヤの空気圧は適切か(電動の場合は充電確認)
撮影場所の選定 窓際の自然光が入る場所(レースカーテン越しがベスト) 背景がすっきりしている場所 車椅子が安定して停められる平らな床
私は必ず車椅子の安定性を最優先に場所を選びます。美しい背景より、安全な環境が何より大切です。
姿勢の整え方:座り直しで印象が変わる
車椅子での撮影で最も大切なのが「姿勢」です。長時間座っていると、どうしてもお尻が前に滑り、背中が丸まってしまいます。
基本の座り直し手順
- ブレーキを確実にかける
- お尻を座面の奥までしっかり入れる
- 背もたれに背中を預ける
- 足をフットレストにしっかり乗せる
背中と背もたれの間にクッションサポート
薄めのクッションやタオルを腰の後ろに入れると、背筋が自然に伸びます。無理に「背筋を伸ばして」と言わなくても、体が自然と起きてきます。
体が傾く方への配慮
片麻痺がある方や側弯のある方は、傾く側にクッションを当てて支えます。無理に真っ直ぐにせず、楽な姿勢を優先しましょう。
膝掛けやブランケットの活用
明るい色の膝掛けを膝にかけると、華やかさが出るだけでなく、足元や車椅子の一部を自然に隠せます。季節感のある色を選ぶと、より素敵です。
撮影アングルの工夫:車椅子を目立たせない構図
バストアップで撮る
上半身だけを撮れば、車椅子はほとんど写りません。顔と肩、胸元までの構図で、表情に集中した一枚が撮れます。
やや上から撮る
カメラを少し高めの位置から撮ると、車椅子の存在感が薄れます。ただし、見下ろしすぎると失礼な印象になるので、自然な高さを意識します。
斜め45度から撮る
正面ではなく、斜め45度から撮ると立体感が出て、車椅子も自然に溶け込みます。窓光が斜めから入る位置に車椅子を配置すると、柔らかい陰影が生まれます。
背景をぼかす
レンズの絞りを開けて背景をぼかすと、車椅子が目立たなくなります。F2.8〜F4くらいで撮ると、ご本人だけが浮き上がるような美しいボケが出ます。
全身を撮る場合
全身を撮る場合でも、車椅子を隠す必要はありません。斜めから撮り、明るい膝掛けをかけ、背景に緑や花を入れると、車椅子も含めて「その方らしい一枚」になります。
コミュニケーション:車椅子に座ったままの目線で

車椅子の方と話すとき、立ったまま見下ろして話すのは失礼です。撮影中も同じです。
目線を合わせる
撮影の指示を出すときは、しゃがんで目線を合わせます。「もう少し顎を引いてください」「素敵な笑顔ですね」と声をかけるとき、同じ高さで話すことで信頼関係が生まれます。
思い出話で自然な表情を引き出す
「昔はどんなお仕事を?」「ご趣味は何でしたか?」と、昔の思い出を聞くと、表情がぐっと生き生きとしてきます。近々の出来事は忘れてしまっていることもあるので、昔の話が答えやすいです。
3ブリンク法で瞳に輝きを
「パチパチと3回まばたきをしてください」「ギュッと目をつむって2秒」「パッと開けた直後にシャッターを切る」
この方法で涙膜が整い、瞳に美しい光が映り込みます。
撮影時間と休憩:疲労のサインを見逃さない
車椅子に長時間座っていると、想像以上に疲れます。
撮影時間の目安
70〜80代は20〜30分を目安に 90代以上は15分を目安に、必ず途中で休憩 認知症の方は10〜15分、短時間集中で
疲労のサイン
顔が青白くなる、冷や汗をかく 背中が丸まってくる、体が傾く まばたきが増える、視線が合わなくなる 返事が遅くなる、声が小さくなる
これらのサインが一つでも出たら、すぐに終了します。
撮影後は必ず水分補給を促し、しばらく休んでいただきましょう。
撮影後のフォロー:その場で見せる喜び
撮影直後に画像をプレビューで見せてあげると、多くの方が目を輝かせます。
「わぁ、きれい」「若く見える」という反応は、何よりの報酬です。
ご家族や施設スタッフにも、撮影中の様子を伝えます。「とてもお元気で、笑顔がたくさん撮れました」「少し疲れが見えたので、早めに終了しました」という情報は、次回の撮影や日常のケアに役立ちます。
まとめ:車椅子も含めて、その方らしさ
車椅子での撮影で一番大切なのは、車椅子を「隠すもの」ではなく「その方の生活を支える大切なパートナー」として捉えることです。
車椅子があるからこそ、外出できる。車椅子があるからこそ、写真を撮れる。そう考えると、車椅子も含めた写真が「その方らしい一枚」になります。
介護福祉士として15年間、何百人もの車椅子の方と接してきた中で学んだのは、安全と快適さが確保されて初めて、人は心から笑顔になれるということです。
技術は後からついてきます。まず、目の前の方を大切にする心。それがあれば、車椅子でも、座位でも、どんな状況でも、美しい一枚が生まれます。
車椅子を活かした撮影を、ぜひ楽しんでみてくださいね。