ソーシャルビューティフォト メイクから撮影までをすべてトータルで行います

介護美容写真家®︎の山田真由美です。

介護施設での撮影は、スタジオや一般的な出張撮影とは全く違う配慮が必要です。15年間介護福祉士として現場で働き、現在は施設での撮影を数多く手がける中で学んだ「技術以前に大切なこと」をお伝えします。

施設は利用者さんの「生活の場」です。私たちは撮影者である前に「お邪魔する側」という意識を忘れてはいけません。

 

撮影前の準備:施設との信頼関係づくり

事前の打ち合わせを丁寧に

施設に入る前に、必ず以下のことを確認しましょう。

  • 撮影日時の施設スケジュール(レクリエーション・入浴・食事時間を避ける)
  • 利用者さんの体調や気分の傾向(朝型・午後型、得意な話題など)
  • 撮影許可と同意書の確認(ご本人・ご家族・施設の三者から)
  • 他の利用者さんへの配慮事項(認知症の程度、音や光への敏感さ)
  • 駐車場と搬入動線(機材を運ぶルート、エレベーターの有無)

施設のスタッフさんは利用者さんの生活リズムを一番よく知っています。「〇〇さんは午前中が機嫌がいいですよ」「今日は少し疲れ気味かもしれません」という情報は、何よりも貴重な撮影ヒントです。

身だしなみと持ち物チェック

  • 清潔感のある服装(派手すぎない、動きやすい)
  • 香水は控える(高齢者は匂いに敏感な方も多い)
  • 上履きまたは室内用シューズ持参(施設のルールを確認)
  • 手指消毒と検温(感染対策は最優先)
  • 名札着用(施設スタッフと区別がつくように)

撮影中の配慮:施設全体への心配り

機材設置の安全管理

施設内は車椅子や歩行器を使う方が多く、動線の確保が最重要です。

  • コード類は必ず養生テープで固定(転倒リスクを完全に排除)
  • 通路の幅を確保(最低でも90cm、できれば120cm)
  • 機材は壁際にまとめる(誰かが触れない位置に)
  • 撮影場所からトイレまでの動線を妨げない

私は撮影前に必ず施設内を歩いて、車椅子の通り道や職員さんの動きを観察します。「ここに三脚を立てると邪魔になるな」と気づくだけで、現場の雰囲気がまったく変わります。


撮影中の観察力:言葉にならないサインを読む

疲労のサインを見逃さない

撮影に集中していると、ついつい「もう一枚」と欲が出てしまいます。でも、高齢者の体力には限界があります。

疲れのサイン

  • まばたきが増える、目を細める
  • 背中が丸まってくる、肩が前に落ちる
  • 表情が硬くなる、視線が合わなくなる
  • 返事が遅くなる、声が小さくなる
  • 口の乾きを訴える、唇をなめる

「大丈夫ですか?」と聞いても「大丈夫」と答える方がほとんどだということを忘れてはいけません。それは周囲への気遣いや、ご自身の体調変化を感じにくくなっている場合もあります。

本人の言葉より、表情と身体のサインを観察することが何より大切です。

  

撮影時間の目安

15分を目安に、必ず途中で休憩

何枚撮るかより、ご本人の状態を最優先します。疲れのサインが出たら、たとえ予定枚数に達していなくても撮影を終える勇気を持ちましょう。


周囲への配慮:一人だけを特別扱いしない

他の利用者さんへの心配り

施設は共同生活の場です。一人の方を撮影していると、周りで寂しそうに見ている方がいることもあります。

  • 「次は〇〇さんも撮りましょうね」と声をかける
  • 通りかかった方にも挨拶をする
  • 撮影中の様子が他の方の目に入ることを意識する

以前、ある方の撮影中に、隣の席で寂しそうに見ていたご利用者がいました。「〇〇さんも素敵ですね。今度ぜひ撮らせてくださいね」と声をかけたら、パッと笑顔になられました。その笑顔を見て、撮影される方も嬉しそうにされていたのが印象的でした。

背景への細心の注意

施設での撮影で最も気をつけなければいけないのが、他の利用者さんの映り込みです。

  • 撮影前に背景を必ず確認(他の方が写っていないか)
  • 撮影後も画像をチェック(予期せぬ映り込みがないか)
  • 他の方が通りかかったら撮影を一時中断
  • 個人情報保護の観点から、施設が特定される掲示物や名札にも注意

個人情報保護法の観点からも、これは絶対に守らなければならないルールです。


職員さんとの連携:チームで撮影する意識

施設スタッフは最強のパートナー

施設の職員さんは、利用者さんの性格や好みを熟知しています。

  • 「〇〇さん、どんな話題がお好きですか?」と事前に聞く
  • 撮影中も近くにいてもらう(安心感と緊急時の対応)
  • 撮影後の様子も共有する(ケア記録にも役立つ)

過去のお仕事や、出身地、好きなものなど情報があるだけで、会話が弾み、自然な表情を引き出せます。

撮影中の役割分担

  • 撮影者:技術とコミュニケーションに集中
  • 職員さん:体調観察と安全管理、盛り上げ役
  • 家族:応援団として温かく見守る

職員さんに「通訳役」ではなく「応援団」になってもらいます。「素敵ですね!」「いい笑顔です!」と盛り上げてもらうと、ご本人も嬉しくなって、より良い表情になります。


撮影後のフォロー:写真を撮って終わりではない

その場で見せる喜び

撮影直後に画像をプレビューで見せてあげると、多くの方が目を輝かせます。

  • 「わぁ、きれい!」「若く見える!」という反応
  • ご家族に見せたいという意欲
  • 次回の撮影への前向きな気持ち

この瞬間が、何よりの報酬です。

職員さんへの報告

撮影後は、必ず施設スタッフに様子を伝えます。

  • 撮影中の様子(楽しそうだった、疲れが見えたなど)
  • 何か特別な反応があったこと
  • 体調面で気になった点

この情報は、施設のケア記録にも役立ちます。介護と写真をつなぐ「橋渡し役」としての意識を持つことで、単なる撮影以上の価値が生まれます。

感謝の気持ちを忘れずに

撮影が終わったら、利用者さん、ご家族、施設スタッフ、全ての方に丁寧にお礼を伝えましょう。

「今日は撮らせていただいて、本当にありがとうございました」という言葉と共に、深く一礼する。それが次回につながる信頼関係を作ります。


まとめ:技術より心、心より敬意

介護施設での撮影で一番大切なのは、「お邪魔している」という謙虚な姿勢です。

カメラを持つと、どうしても「いい写真を撮らなきゃ」と思ってしまいます。でも、施設で最優先すべきは、目の前の方の尊厳を守ること。安全を守ること。生活のリズムを乱さないこと。

技術は後からついてきます。まず、一人の人間として、利用者さん、職員さん、施設全体を思いやる心。それが、心に残る一枚を生み出す原点です。

15年の介護経験と写真の仕事を通じて、私が一番強く感じているのは、「撮らせていただく」という感謝の気持ちです。

その気持ちがあれば、自然とマナーも、心配りも、身についていきます。

施設での撮影を任されるということは、大きな信頼をいただいているということ。その信頼に応えるために、これからも一枚一枚、丁寧に向き合っていきたいと思います。