ソーシャルビューティフォト メイクから撮影までをすべてトータルで行います

介護美容写真家の山田真由美です。

「笑ってください」と言っても硬い表情のまま。「リラックスしてください」と言っても緊張が解けない。そんな経験はありませんか?

実は、美しい表情は「撮影技術」ではなく「会話」から生まれます。介護現場で高齢者と向き合い、気づいたのは、カメラを構える前の会話が、写真の9割を決めるということです。

今日は、その方の人生に敬意を払いながら、自然な笑顔を引き出す会話のコツをお伝えします。


撮影前の雑談:信頼関係をつくる5分間

いきなりカメラを向けるのではなく、まず「この人は安心できる人だ」と思ってもらうことが大切です。

最初の挨拶で心を開く

「今日はお会いできて嬉しいです」「素敵なお召し物ですね」と、心からの言葉で挨拶しましょう。

形式的な挨拶はすぐに見抜かれます。

まずは世間話から

天気の話、季節の話、今日の体調など、答えやすい話題から始めます。「今日は暖かいですね」「桜がきれいな季節ですね」といった軽い会話で、緊張をほぐします。

相手のペースに合わせる

ゆっくり、穏やかなトーンで、相手の反応を見ながら話します。耳が遠い方には、正面から低めの声で、口の動きがわかるように話しましょう。

褒めることから始める

「お元気そうですね」「お肌がきれいですね」「素敵な笑顔ですね」と、素直に褒めます。お世辞ではなく、本当に素敵だと思ったことを伝えると、自然と表情が明るくなります。


昔の思い出を聞く:表情が一気に変わる瞬間

高齢者にとって、一番話しやすく、表情が輝くのは「昔の思い出」です。

仕事の話を聞く

「昔はどんなお仕事をされていたんですか?」と聞くと、多くの方が目を輝かせて話し始めます。誇りを持って働いていた頃の話は、自然と表情が生き生きとしてきます。

趣味や特技を聞く

「ご趣味は何でしたか?」「得意なことはありますか?」と聞くと、「昔は踊りを習っていた」「編み物が得意だった」など、嬉しそうに話してくれます。

家族の話を聞く

「お孫さんは何人いらっしゃるんですか?」「ご家族はお近くですか?」と聞くと、家族への愛情が溢れる表情が見られます。ただし、家族との関係が複雑な場合もあるので、反応を見ながら慎重に。

若い頃の恋愛話

「昔はモテたんじゃないですか?」と聞くと、照れながら笑う方が多いです。特に女性は「若い頃は痩せていてね」「よく踊りに行ったわ」と、楽しそうに話してくれます。

近々の出来事は避ける

「今朝は何を食べましたか?」「昨日は何をしましたか?」といった最近の出来事は、忘れてしまっていることも多く、答えられないことで自信を失わせてしまいます。昔の話の方が鮮明に覚えていて、話しやすいのです。


会話中の観察:言葉より表情を見る

会話をしながら、表情や仕草をよく観察します。

好きな話題を見極める

どんな話題のとき、表情が明るくなるか。どんな言葉に反応するか。それを見極めて、その話題を深掘りします。

苦手な話題を避ける

逆に、表情が曇ったり、視線を逸らしたりする話題は、すぐに変えます。無理に聞き出そうとせず、心地よい話題だけを選びます。

沈黙を恐れない

会話が途切れても焦る必要はありません。「ゆっくり考えてくださいね」と優しく待つことで、安心感が生まれます。

うなずきと相づち

「そうなんですね」「素敵ですね」「すごいですね」と、共感しながら聞きます。話を聞いてもらえる喜びが、自然な笑顔を生みます。


撮影中の声かけ:指示ではなく会話

撮影が始まっても、会話は続けます。

「笑ってください」は禁句

「笑ってください」と言われると、多くの方が作り笑顔になってしまいます。それより「さっきの〇〇のお話、楽しかったですね」と、会話を続ける方が自然な笑顔が出ます。

具体的なエピソードで笑顔を引き出す

「お孫さん、可愛いでしょうね」「若い頃はきっとモテたんでしょうね」と、想像できる言葉をかけると、自然と表情が緩みます。

「素敵ですね」を連発する

「その笑顔、素敵ですね」「いい表情です」「今の目、輝いてますよ」と、撮影中も褒め続けます。褒められると、どんどん表情が良くなります。

素敵に撮れている写真を一緒に共有すると恥ずかしそうな嬉しそうな素敵な表情をされる方が多いです。

冗談を交える

「若い頃の写真かと思いましたよ」「これ、60代に見えますね」と、軽い冗談を言うと、笑顔が弾けます。ただし、相手の反応を見ながら、失礼にならない範囲で。


認知症の方への会話術:否定せず、共感する

認知症の方との会話には、特別な配慮が必要です。

否定しない、訂正しない

「息子が迎えに来る」と言われても、「今日は来ませんよ」と否定せず、「そうですか、楽しみですね」と共感します。否定されると不安になり、表情が硬くなります。

シンプルな言葉で

「今から写真を撮りますね。きれいに撮りますよ」と、短くシンプルに伝えます。複数の指示を一度に出すと混乱します。

繰り返しの質問にも優しく

同じ質問を何度されても、初めて聞いたように答えます。「さっきも聞いたでしょ」は禁句です。

感情に寄り添う

「不安なんですね」「寂しいんですね」と、感情に寄り添います。感情を受け止めてもらえると、安心して表情が和らぎます。


撮影後の会話:次につながる一言

撮影が終わった後の会話も大切です。

すぐに写真を見せる

「見てください、こんなに素敵に撮れましたよ」と、その場で画像を見せます。「わぁ、きれい」「若く見える」という反応が、次回への意欲につながります。

感謝を伝える

「今日は撮らせていただいて、本当にありがとうございました」と、心から感謝を伝えます。「撮ってあげた」ではなく「撮らせていただいた」という謙虚な姿勢が大切です。

また会いたいと思わせる

「また素敵な写真を撮りましょうね」「次回も楽しみにしています」と、次につながる言葉をかけます。


まとめ:会話こそが最高の撮影技術

「その人らしさ」を引き出すのは、カメラでもレンズでもライティングでもありません。それは「会話」です。

人生の大先輩として敬意を払い、その方の歴史に耳を傾け、心から共感する。そんな会話の中から、作られた笑顔ではない、本当の笑顔が生まれます。

介護福祉士として15年間、何千人もの高齢者と接してきた中で学んだのは、人は「自分を大切にしてくれる人」の前でしか、本当の笑顔を見せないということです。

技術は後からついてきます。まず、目の前の方に心から興味を持ち、その人生に敬意を払う。それができれば、自然と「その人らしい」表情が撮れるようになります。

会話を楽しみながら、一枚一枚、丁寧に向き合っていきましょう。