介護美容写真家®︎の山田真由美です。
撮影現場で「認知症の方の撮影が一番難しい」という声をよく聞きますが、認知症の方は「難しい」のではなく、「環境と対応次第で最高の笑顔を見せてくれる」ということです。
今日は、認知症の方を撮影する際の具体的な対応方法をお伝えします。
1. 撮影前の環境づくり
【過去の「安心記憶」を空間に再現する】認知症の方は「新しい場所・新しい人・新しいこと」にストレスを感じやすいです撮影場所に本人の思い出の写真や愛用品を配置することで安心される場合もあります。「いつもの場所」感を演出することで、BPSD(行動・心理症状)を予防しましょう
【五感で安心を伝える工夫】
- 視覚:お部屋は明るすぎず、暗すぎない環境で
- 聴覚:好きだった音楽を小さく流す(回想法の応用)
- 嗅覚:本人が好きだった香り(お花、お茶など)
- 触覚:手を握りながらの声かけ
【カメラを「見えないもの」にする技術】
- 最初の10分は一切カメラを構えない
- 三脚にセットして「置物化」し、警戒心を解く
- 望遠レンズでの遠距離撮影も有効
2. コミュニケーション
【3つのダメ原則を徹底】
- 否定しない:「違いますよ」は絶対NG
- 無視しない:同じ質問でも毎回新鮮に答える
- 子供扱いしない:「〇〇ちゃん」ではなく「〇〇さん」
【「今」ではなく「昔」から会話を始める】
- 「今日は何月ですか?」「今朝は何を食べましたか?」などの記憶が必要となる質問はしない
- 出身地や昔のお仕事などの昔の記憶は維持されている場合が多いです。
- 回想法を使いながら自然に笑顔を引き出す
【ノンバーバル(非言語)コミュニケーションの重要性】
- 言葉よりも表情・声のトーン・スキンシップが重要になります
- 目線を必ず同じ高さに(座るか膝をつく)
- 笑顔と柔らかいゆっくりとした声のトーンで安心感を
3. 撮影中の「認知症配慮テクニック」
【時間感覚の配慮】
- 「5分だけ」と言っても理解が難しい→「これが終わったら」と視覚化
- 撮影時間は最大15分まで(集中力の限界)
- 体調変化のサインを見逃さない
【指示は1つずつ、具体的に】
- ❌「綺麗に座ってください」→抽象的で混乱
- ◯「この椅子に座ってください」→動作が明確
- 複数の指示は混乱するので、1動作ごとに待つ
【突然の拒否反応への対応】
- 無理に続けない(帰宅願望などBPSDの引き金に)
- 「また今度にしましょう」と一旦中断
- 場所を変える・時間を変える・人を変えることも検討
4. 「認知症サイン」の読み取り方
【言葉にならないサインを読む】
- 手をモゾモゾ動かす→不安のサイン
- 視線が泳ぐ→場所の見当識障害で混乱
- 体を揺らす→落ち着かない、帰りたい
- 急に無表情→疲労または不快
【BPSD予防のチェックリスト】
- トイレは撮影前に済ませたか
- 室温は適切か(暑い・寒いは不快感の原因)
- 本人の「いつものリズム」を壊していないか
- 知らない人が多すぎないか(2〜3人まで)
5. 家族・施設職員との連携が成功の鍵
【事前情報の共有】
- 認知症のタイプ(アルツハイマー型、レビー小体型など)
- 好きだったこと・嫌いなこと
- 「地雷ワード」の確認(触れてはいけない話題)
- 最近のBPSDの状況
【撮影中は「キーパーソン」に同席してもらう】
- 一番信頼している家族または職員
- 本人が安心できる存在がそばにいることで表情が柔らかく
【撮影後のフォローも大切】
- 撮影した写真を一緒に見る(回想法の継続)
- 「素敵でしたよ」と肯定的なフィードバック
- 写真を飾ることで自尊心の向上にも
まとめ
認知症の方の撮影は、確かに配慮が必要です。でも、その方の人生と尊厳に寄り添った対応をすれば、どんな方でも素敵な笑顔を見せてくれます。
大切なのは、「写真を撮ること」よりも「その方が安心できる時間を提供すること」。その結果として生まれる自然な表情こそが、最高の一枚になるのです。