介護美容写真家®︎の山田真由美です(介護福祉士)。
「立って撮りたいけど、転倒が心配」「座ると姿勢が崩れてしまう」そんなお悩みをよく聞きます。
足腰の弱い方の撮影で最も大切なのは、美しい写真を撮ることより「安全に、快適に、尊厳を守って」撮影すること。
15年間介護福祉士として現場で働き、数え切れないほどの移乗介助や姿勢保持を経験してきた中で、安全で美しく撮るための具体的な工夫が見えてきました。
技術の前に、まず「この方を守る」という意識。それがあれば、自然と良い撮影ができるようになります。

撮影前の確認:体調と身体状況を把握する
必ず確認すべき5つのポイント
- 今日の体調(痛み・めまい・息切れの有無)
- 麻痺や拘縮の有無(左右どちらが弱いか、動かせる範囲)
- 血圧の薬を飲んでいるか(起立性低血圧でふらつく可能性)
- 最近転倒したことはないか(転倒への恐怖心がある場合も)
- 普段どんな椅子を使っているか(座り慣れた高さや硬さ)
「立つのが怖い」「長く座っていると腰が痛い」など、ご本人が感じている不安を最初に聞いておくことで、無理のない撮影計画が立てられます。
椅子選びの基本:安全と美しさを両立する
理想的な椅子の条件
必須条件
- 肘掛け付き(立ち座りの支えになる)
- 背もたれがしっかりしている(体を預けられる安心感)
- 座面の高さ40〜45cm(足裏が床にしっかりつく高さ)
- 座面は適度な硬さ(柔らかすぎると立ち上がれない)
- 安定性が高い(ぐらつかない、キャスター付きは避ける)
避けるべき椅子
- ソファや低すぎる椅子(立ち上がれない)
- 回転椅子やキャスター付き(不安定)
- 座面が柔らかすぎるもの(体が沈んで姿勢が崩れる)
椅子が低すぎる場合は、薄めの固いクッションを1〜2枚重ねて高さ調整します。足裏全体が床にぴったりつくか必ず確認しましょう。
安全な座位姿勢のつくり方
基本の座り方4ステップ
1. お尻の位置を奥まで
背もたれにお尻がしっかりつくまで深く座ります。浅く座ると前に滑り落ちる危険があります。
2. 足裏全体を床につける
両足とも床にぴったりつけます。膝の角度は90度前後が理想です。
3. 背もたれと腰の間にサポート
薄めのクッションやタオルを腰の後ろに入れます。これだけで背筋が自然に伸びて、体が安定し、呼吸も楽になります。
4. 肘掛けに軽く手を置く
両手を肘掛けに置くと安心感が生まれます。撮影時は片手だけ膝に置くなど、自然な形に調整できます。
体幹が弱い方や側弯のある方は、体が傾く側に厚めのクッションを当てると楽になります。無理に真っ直ぐにせず、楽な姿勢を優先しましょう。
立位撮影の判断と安全対策
本当に立つ必要があるか考える
「立って撮りたい」というリクエストがあっても、安全が確保できない場合は座位撮影を強く推奨します。
立位撮影が可能な条件
- 自力で立ち上がれる、または軽介助で立てる
- 30秒以上立位を保持できる
- ふらつきや膝折れの危険がない
- 介助者が1〜2名いる
無理に立たせる必要はありません。
立位撮影時の安全確保
立位で撮る場合は、背後に壁がある位置で、弱い側に必ず介助者を配置します。「1、2、3」と声をかけてゆっくり立ち上がり、立った直後は数秒待ってめまいがないか確認します。
立位は30秒以内とし、疲れのサインが出たらすぐに座らせます。私の場合、立位撮影は本当に必要な1〜2枚だけにして、あとは座位で撮ります。
車椅子での撮影:そのまま美しく撮る
車椅子を使っている方を、わざわざ別の椅子に移す必要はありません。車椅子は安全性が高く、ご本人も座り慣れているので、車椅子のまま撮影しても大丈夫です
ブレーキをしっかりかけ、背もたれにしっかり体を預けます。背中と背もたれの間にクッションを入れると姿勢が安定します。
バストアップやアップで撮れば車椅子は画角外になりますし、全身を撮る場合は斜めから撮ると自然です。
ただし、車椅子が汚れていたら綺麗にしましょう。
撮影中の観察:疲労のサインを見逃さない
無理をしても「大丈夫」と言ってしまうことが多いです。以下のサインが出たら、即座に撮影を中断してください。
危険サイン
- 顔が青白くなる、冷や汗をかく
- 呼吸が荒くなる、体が傾く
- 表情が硬くなる、視線が合わなくなる
- 「ちょっと休みたい」「痛い」「疲れた」
これらのサインが一つでも出たら、「もう少しだけ」と欲張らず、すぐに休憩または終了します。
撮影直後は疲労で転倒リスクが高まります。「すぐに動かず、少し休んでから」と必ず伝えましょう。

まとめ:美しい写真は、安全な環境から生まれる
足腰の弱い方を撮影する時、一番大切なのは「美しい写真」ではなく「安全と快適さ」です。
無理な姿勢をさせない。転倒リスクをゼロにする。痛みや不安を感じさせない。
そうした配慮が整ったとき、ご本人は初めて心から安心して、カメラの前で自然な表情を見せてくれます。
介護福祉士として15年間、何千回と移乗介助や姿勢保持をしてきた経験の中で学んだのは、「安全が確保されて初めて、人は笑顔になれる」ということです。
技術は後からついてきます。まず、目の前の方を守る。それができれば、自然と美しい一枚が生まれます。
椅子選びも、姿勢づくりも、すべては「この方を大切にしたい」という気持ちから始まります。その気持ちを忘れずに、一枚一枚、丁寧に向き合っていきましょう。